先祖が建てたお墓には、ご先祖様のお骨が入っており、墓じまいをすると自分や子供が不幸になるのではないか?さらには祟られるのではないか?
墓じまいを検討したことがある方は、そんな素朴な心配や疑問を感じたことがあるのではないでしょうか。
実際に墓じまいをしたから不幸になったという話は聞いたことはないですが、根拠がないと分かっていても何故か気になる。
そんな心苦しく感じたり躊躇する気持ち、そして素朴な疑問を解消するために、この近年のお墓事情から不安解消の糸口を紐解いてみましょう。
「墓じまい」と「改葬」という言葉
まず、墓じまいという言葉は、割と最近(2015年辺り)生まれた言葉で、墓じまいとは何かを説明致しますと、
ご遺骨を他の供養しやすい場所に移し、残ったお墓は誰も使わないので更地にして墓地管理者へ返すことです。
墓じまいをする理由は、
- お墓の継承者(墓守)がいない
- 引越しでお墓が遠くなった
- お墓があるお寺との関係が悪化
- お墓の維持管理負担を減らしたい
- 元気なうちに終活の一環として
- ご先祖の33回忌を目処に墓じまいしたい
など様々ですが、今まで通りお墓を利用することが難しくなりやむを得ず墓じまいを選択する方が多いです。
ご遺骨を移動する”改葬”は古くから行われており、墓地埋葬法でも細かに謳われております。
よって、住まいの引越しや何らかの事情により、ご遺骨を身近な場所にご移動いただいて供養する行為は昔から行われており、そうして使わなくなったお墓は、墓石(竿石部分)のみ無縁塔・無縁塚などで並べられて合同供養されるか、他の部材と共に解体・撤去されておりました。
ではなぜ、現代ではお墓を解体・撤去すると不幸になるのではないかと心配される方がいるのでしょうか?
おそらくそれは「墓じまい」という言葉と「核家族化」、そして「お寺離れ」が原因ではないかと思われます。
「墓じまい」という言葉は、使わないお墓を仕舞う(片付ける)イメージを受けてしまいますが、使わなくなったお墓を解体撤去し、ご遺骨をその後供養しやすい場所に移すわけですから、昔から行われていた”改葬”とほぼ同じです。
それが、片付ける(仕舞う)言葉と共に”仏様をないがしろにする行為”をイメージを受けがちです。
現に私も30年ほどお墓・ご供養に関するお仕事に携わっておりますが、「墓じまい」という造語が世に出始めた2015年頃は、仕舞うという言葉が「お墓」を物のように扱われている気がして、とても強い抵抗感を感じておりました。
このお墓を仕舞う「墓じまい」という言葉が、一般的に分かりやすく受入れられ、普及しつつ少し一人歩きしてしまった状態なのかもしれません。
また、家族形態が変わり核家族化が進んだことにより、親戚のご年配者との交流時間も減少したことから、昔から改葬が行われてきたことが伝わらない。
さらに、現代ではお寺とのつながりが乏しく、疎遠になりがちなため、お坊さんからお墓やご供養に関するお話を聞く機会もなくなり、改葬という言葉も聞いたことがないという方も多いのではないでしょうか。
よって、言葉のイメージが先行してしまい、改葬などに関する知識を得る機会が減っている現実で、墓じまいは最近新しく生まれた行為であると思われているのではないでしょうか。
不安?!では日本でどれだけ改葬されているの?
「不幸になるのではないか?」「祟りがあるのではないか? 」とまで不安に感じる墓じまいや改葬ですが、いったい日本でどれだけの改葬が行われているのでしょうか?
参照元:e-Stat政府統計の総合窓口
上のグラフは、年度別の改葬件数推移を表したグラフです。
2019年は過去最多の124,346件、最新の2021年度は118,975件の改葬が行われていることがわかります。
年により増減を繰り返しながらも、改葬件数が上昇傾向にあるのが見て取れます。
何かしら不安を感じる気持ちも理解できますが、これだけ多くの方々が改葬の決断をされているのも事実です。
皆様が各々のご事情に合わせたご供養を選択している現れと思われます。
墓じまいより良くないことは?放置・無縁墓
実際には、先祖や身内を蔑ろにすることなく、しっかりと供養する行為が”改葬”と”墓じまい”に現れます。
逆に、供養に行けなくなるのに供養を放棄してしまったり、無縁になると分かっていながら先祖のお墓をそのまま放置してしまう方が、「先祖にこんなことすると不幸にならのでは?」と心配になってしまうのではないでしょうか?
立つ鳥跡を濁さずではないですが、先祖のため、自分のため、そして残される子供・孫・親族の為にも、今できる供養の方法を選択することは、その後の安心にもつながる大切なことと思えるのではないでしょうか。
因みに、使用者と連絡がつながらないまま放置されたお墓は、墓地管理者が一定期間立て札を立て、使用者やその関係者が現れないと無縁墓と判断され、墓地管理者の判断もとお墓の解体撤去や別施設への改葬が行われます。
別施設への改葬の多くは、合祀墓や合葬墓と呼ばれる、他の方とご遺骨が混ざり合う埋葬方法の施設へ移されることが多く、その場合、一度埋葬されると二度と取出すことは出来なくなるので注意が必要です。
合わせて読みたい:無縁墓とは?
閉眼供養(魂抜き)は墓じまいの前に
とはいえ、何もせずにそのままご遺骨をお墓から出したり、お墓を解体することはお勧めできません。
墓じまいの前には魂抜き(閉眼供養・御霊抜き・お務め終え)の法要を執り行ってから、ご遺骨の搬送やお墓の解体を行いましょう。
この魂抜き法要は、お墓から石に戻す意味を持ちます。
おそらくお墓を建てたときには、開眼法要(魂入れ)を行い、石からお墓になる法要が執り行われたとことと思います。
これとは逆に、墓じまいの前はお墓から石に戻す法要を行います。
このように、墓じまいをしかるべき手順を追って執り行うことにより、祟られることや不幸になることを心配するよりも、前向きにより良い供養をすることで安心を得られるのではないでしょうか。
まとめ:墓じまいについての誤解と現実
墓じまいの不安:先祖の墓をどうすれば良いのかという疑問や不安がある。墓じまいをすると不幸になるのではないかという心配もあるが、その根拠は実質的にはない。
墓じまいの定義:2015年ごろに使われ始めた「墓じまい」という言葉は、使用しないお墓を更地にして墓地管理者に返す行為を指す。
原因は、お墓を使わなくなったため、より良い供養をするために場所を変えることが主な理由。
改葬の歴史:「改葬」は、ご遺骨を移動して供養する行為で、昔から行われていた。
使われなくなったお墓は、墓石を無縁塚などで供養するか、解体・撤去されていた。
現代の誤解:「墓じまい」の言葉、核家族化、お寺からの距離感が墓じまいの誤解を生む原因。古くからの「改葬」の概念が知られていないため、墓じまいが新しい行為のように感じられる。
墓じまいの真の意味:実際には、先祖を尊重して供養する行為が「墓じまい」や「改葬」に反映されている。問題は、供養を放棄し、無縁の墓を放置すること。
閉眼供養の重要性:墓じまいをする前には、「閉眼供養」を行い、お墓を石の形態に戻す。この法要がお墓の適切な扱いと供養には欠かせない。
供養の方法や墓の扱いに関する考え方は、時代や家族の状況によって変わるかもしれませんが、先祖を尊重し、適切に供養することが最も大切です。